鋼管杭・鋼管矢板・鋼矢板
の適用事例

鋼管杭・鋼管矢板・鋼矢板のある風景

01

大井コンテナ埠頭

1971~1975年 建設

鋼管杭概要

鋼管径  : φ700~900mm
施工深さ : 最大60m
鋼材量  : 7,200ton
施工総延長: 2,354m

大井コンテナ埠頭

建築物概要

国際規模のコンテナターミナルに鋼管杭式桟橋が採用

1971年11月から整備された大井コンテナ埠頭は、鋼管杭式桟橋を採用することにより軟弱地盤での耐震性を満たしたほか、巨大な重量をもつガントリークレーンの基礎兼用ともなった。また、施工の迅速性から工期短縮に寄与し、1975年には全8バースの供用を完了した。当時、世界有数の規模を誇り、日本の外国貿易のメインポートとして機能することになった。

コンテナ船の大型化に伴い、大規模な再整備を実施

1980年代後半よりコンテナ船の大型化が顕著になり、大井コンテナ埠頭は大型コンテナ船に対応するために、1996年から再整備事業が実施された。2003年度まで順次進められた再整備では、従来の岸壁延長2,300m全8バースから総延長2,354m全7バースに再編。1バースあたりの岸壁250〜300mを330〜350mに延長し、水深も13mから15mに増深された。
この結果、8万t級の大型コンテナ船7隻が同時に着岸できるようになった。
さらに、新3〜7バースの岸壁は桟橋部分が35m前出しされ、コンテナ置き場の面積が26%拡大。
これにより、コンテナヤードの取扱能力が大きく向上された。
その後、兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)以降に見直された港湾の大規模地震対策構想から、新4〜6バース(延長990m)を大規模地震に対応できる耐震強化岸壁としてリニューアル。
この再整備事業でも、φ1,300mmを主体とした鋼管杭による桟橋構造が採用されており、既存ストックを有効活用して高規格なリニューアルを図る港湾建設に鋼管杭が貢献した。

コンテナ船の大型化に伴い、大規模な再整備を実施

02

石狩河口橋

1967~1976年 建設

鋼管杭・鋼管矢板概要

鋼管径 : φ508~1219.8mm
施工深さ: 最大42m
鋼材量 : 4,854ton

石狩河口橋

建築物概要

本橋以降、全国の軟弱地盤で急速に進展した鋼管矢板基礎

石狩河口橋は1976年11月の全通時では記録的な橋梁構造であった。橋長1,412.7m、最大支間長160mは当時、北海道内1位。それまでの技術では、厚い軟弱地盤が広がる河口部で1,500m近くもの長大橋の建設は困難とされてきた。それを可能にしたのが橋梁基礎として初めて採用された鋼管矢板基礎である。
石狩河口橋での採用以降、全国の軟弱地盤における橋梁基礎としての適用が急速に進展した、基礎分野でエポックメーキングとなった事例であった。

厳しい自然条件を克服しながら維持管理される長大橋

石狩河口橋は、2022年現在、建設から40年以上が経過していることから長寿命化に向けた維持管理が課題となっている。管理する北海道開発局では、おおむね5年ごとに定期点検を行い、点検結果を基に長寿命化修繕計画を立案し、補修・補強工事を実施している。

基礎部の維持管理で課題となっていたのは、多雪地域の大河川である石狩川の河床洗掘による影響だった。架橋地点は出水期を中心とした河床洗掘が激しく、2014年にはP6橋脚のフーチング下面より最大3.4mの洗掘が確認された。橋脚部周囲は捨石とともに鋼矢板で囲って根固め工を施しているが、流速変動による土砂の吸い出し現象で洗掘が進む傾向が続き、これ以上の進行は地震時耐力を下回る恐れがあると判断された。

P5橋脚でも同様の傾向だったため洗掘対策工が実施された。
P5橋脚では2015年2月に対策工(水中施工が可能なコンクリート打設による充填)が実施され、河川結氷時であったことから静水環境維持の観点からは設計時より有利な条件であったが、悪天候等により台船のえい航に苦労させられたという。極寒の地ならではの困難を克服しながら維持管理が行われてる。P6橋脚は結氷前の翌年12月に施工が完了している。

石狩川河口橋は、現在でも、増毛町や留萌市をはじめとした道北との人や物流を最短でつなぐ周辺地域にとって重要な橋梁であることに変わりはない。鋼管杭・鋼管矢板が100年を視野におさめた公共資産であることが実感できる。

厳しい自然条件を克服しながら維持管理される長大橋

03

川口芝園団地

1973~1978年 建設

鋼管杭・鋼管矢板概要

鋼管径 : φ500~800mm
施工深さ: 最大43m
鋼材量 : 22,800ton

川口芝園団地

建築物概要

周辺環境を配慮し、静音重視で行われた杭施工

埼玉県川口市にある川口芝園団地は、JR京浜東北線蕨駅から徒歩10~15 分にある総戸数2,454戸の大規模団地である。高度経済成長期の東京の深刻な住宅不足解消を目的に、日本車両製造の工場跡地を日本住宅公団(現UR都市機構)が取得し、1973年に着工。メインとなる7棟の住宅(最高階数15階)は、1978年3〜12 月に順次完成した。
建設地は年間40〜50mmの圧密沈下が想定されたことから、支持層を深度37m以深とし、鋼管杭基礎が採用された。周辺が住宅街であったため杭打機は20機以下に制限したほか、中掘り工法に加えて住宅地に近い施工箇所は無振動無騒音Jet and Jacki Pile工法が採用されて、静音第一に杭施工が行われた。

築40年以上の団地を修繕、改装しながら維持

建築後40年以上経過した川口芝園団地では、メンテナンスが重要なテーマになっている。
計画的な修繕のほか、1995年施行の耐震改修促進法に基づいた耐震改修も実施されており、ピロティ部の壁増設や住宅階の一部を枠付き鉄骨ブレースで補強したほか、柱の一部を鉄板で補強。スリットを入れる改修も随所で実施されている。
ちなみに設計時に想定された圧密沈下は、これまで対策が必要な範囲では発生していない。
現在、UR都市機構の団地別整備方針において川口芝園団地は再生手法が検討されており、既存の設備を維持改修しながら供用が続けられている。時代ごとに街並みも暮らす人も変遷するが、そのハード面の基礎を40年以上にわたって鋼管杭が担い続けている。

築40年以上の団地を修繕、改装しながら維持

04

中央防波堤外側埋立処分場

1974年~ 建設中

鋼管杭・鋼管矢板概要

鋼管径 : φ1320.8mm
施工深さ: 最大56.5m
鋼材量 : 129,000ton

中央防波堤外側埋立処分場

建築物概要

迅速な施工性、高剛性とともに環境保全対策から止水性も評価された鋼管矢板

東京の廃棄物処理は、明治時代中期以降の人口増加により処分先の問題が顕在化しはじめた。
処分先は、東京湾の浚渫土とともに古くから埋立てられていた海面に加え、昭和時代初期までは、増加する人口を受け入れるための土地造成用途に、現在の区部に100カ所以上の内陸処分場があった。
近代以降の東京のゴミ埋立は、現在の江東区潮見である8号地で昭和2年からはじまったが、昭和30年代後半からの産業の急激な発展と過度な人口集中により、14 号地(江東区夢の島)、15号地(同・若洲)ともに10年前後で埋立を終了。さらに東京湾の沖合の中央防波堤を挟む形での最終処分場が計画された。このうち、中央防波堤内側埋立地(面積78 万m2、埋立量1,230 万t)は1973 年から1986 年までに廃棄物の受け入れを完了。さらに、当面の最終処分場として整備されたのが、中央防波堤の外側の海域に1977年から埋立がはじまり現在も使用されている、中央防波堤外側埋立処分場である。
その建設工事では、総延長約11,400mとなる二重式鋼管矢板護岸が採用された。その理由は、建設地が防波堤の外側であるため、施工時も完成後も波浪の影響が大きく、建設海域は海底面から非常に深度が深い超軟弱地盤であった。さらに、早期の埋立開始が求められていたため工期は短く、迅速な施工が必要であった。また、護岸には廃棄物の投棄時と埋立完了時に強大な荷重がかかる。そのため、その建設には施工が早く、本体荷重が比較的軽い鋼材を主体とすることが設計思想からも合理的であると判断された。
この護岸本体工の形式と断面の決定は、耐震性や施工性、経済性のほか、処分場からの浸出水による海域汚染防止という環境保全対策の点からも評価されて採用されている。打設された鋼管矢板には構造の安全性を高め、汚水の浸透防止の観点から中詰砂が施されている。また、鋼管矢板の継手部分に止水モルタルグラウトを施すとともに、鋼管矢板の前面に鋼矢板Ⅲ型を設置した後に、コンクリートを間詰めすることで止水には万全を期している。この継手形式については、止水性と施工性、製作性の3点を重点として鋼管杭協会が調査研究を委嘱され、全面的に採用されたものである。
東京の廃棄物最終処分場の残余容量は、1998年に埋立が開始された新海面処分場とあわせて今後50年以上と推計されている。半世紀を超える大都市の廃棄物処理と埋立完了後の造成地利用に鋼管矢板が時代を超えて貢献している。

05

三郷浄水場

1976~1993年 建設

鋼管杭・鋼管矢板概要

鋼管径 : φ609.6~1500mm
施工深さ: 最大58.6m
鋼材量 : 107,800ton

三郷浄水場

建築物概要

急増する東京の水需要を解決するため基幹浄水場建設の基礎として採用された鋼管杭

三郷浄水場は、戦後の著しい東京への人口集中や産業の急成長による水道需要の急増に対し、慢性的な供給力不足を解消するため1972年に計画された。
計画地は古利根川と江戸川にはさまれた沖積低地で、氾濫原堆積層および沖積層が15〜20m程度の厚さで分布した典型的な後背湿地泥層であった。それ以深も砂礫層主体のN値10〜40程度の地質で、構造物基礎杭の支持地盤は-50〜-60m付近のN値50の砂層に求められた。
支持層がきわめて深い上に、管理本館、薬品統合管理所、排水ポンプ所、ろ過池、排水池、原水ポンプ所、送水ポンプ所、受変電所など、構築される構造物のほとんどが超大重量を有し、大きな荷重がかかることから、施工性や経済性、信頼性を検討した結果、鋼管杭が基礎杭として採用された。
1977年に着工した三郷浄水場は、1985年6月に第一期工事を完了し、55万m3/日の通水を開始。当時、国内最大の金町浄水場を超えて、世界第三位の供給能力を誇った。その後、 1993年5月までに第二期拡張工事を終え、現在では110万m3/日超の大規模浄水場として、東京都の水道事業の基幹を担っている。

東京広域の水道事業の根幹を支える鋼管杭

三郷浄水場では、施設維持管理の最重要課題のひとつとして、さまざまな災害対策に取り組んでいる。
首都直下地震による施設の機能停止への対策として耐震化工事を進めるほか、大規模停電時においても安定的に給水ができるよう常用発電設備などの増強が2025年度までに図られているところである。また、富士山噴火に伴う沈殿池などへの火山灰による影響への対策が必要であるとして、降灰も含めた異物混入対策として沈殿池の覆蓋化を推進し、現在おおむね完了している。
ろ過池やポンプ所などの構造物基礎として使用されている三郷浄水場の鋼管杭は、地中に埋設されているため現況を確認することはできないが、1985年の通水開始以降、浄水場内構造物に沈下等の問題は発生していない。このことからも、鋼管杭は打設時のまま超重量構造物の健全性を保持しながら、東京都全体で686万m3/日のうち110万m3/日を超える基幹浄水場の、東京広域の浄・配水を担うという重い責務に寄与し続けているといえる。

06

関西国際空港連絡橋

1987~1991年 建設

鋼管杭・鋼管矢板概要

鋼管径 : φ1000~1500mm
施工深さ: 最大65m
鋼材量 : 48,320ton

関西国際空港連絡橋

建築物概要

海上の人工島と陸岸を鉄道と道路で結ぶ世界最大級の連絡施設

関西国際空港の建設は、増大する航空需要や大阪国際空港の騒音による使用制限に対応するために計画された。そのため、その位置は周辺地域への騒音の影響や24時間運用可能な国際・国内線の拠点とすることを考慮して、大阪湾泉州沖約5kmの海上とされた。1984年から、当時の最新技術を駆使した世界最大級の埋立が行われ、世界初となる「完全人工島の海上空港」として1994年9月に開港した。
同空港は大阪都心部より約50km離れているため、空港機能を十分に発揮できるアクセス手段を確保することも重要な課題のひとつであった。そのかなめとなったのが人工島にとって唯一の陸上アクセスルートとなる連絡橋であった。
架橋地点の地盤は軟弱で、明確な支持層が橋脚位置によりかなり異なっていたため、支持層が薄い、あるいは支持層が極端に深い地点では、支持杭に加えて摩擦杭も採用された。航行船舶の多い海域であったため、海上部橋脚は短期間に大型クレーン船で吊込み設置できる鋼製橋脚形式とし、耐震性と剛性の確保として中詰めコンクリートを充填する構造となっている。
完成した連絡橋は2022年現在でも世界最長を誇る橋長3,750mのトラス橋で、上段に片側3車線の専用道路、下段に複線の電車専用線を配置したダイナミックなダブルトラスデッキが特徴となっている。

鋼材がもつ強靱な特性で想定外の災害にも対応

関西国際空港は航空旅客数、取扱貨物量ともに大部分を国際線需要が占め、日本における西のゲートウェイとして位置づけられている。そうした、国際的な経済・文化を関西エリアのみならず全国へと波及させる役割を担うのが連絡橋である。
2018年9月には、記録的な強風を伴った台風により走錨したタンカーが橋桁に衝突し、一時、通行止めを余儀なくされる災害にも見舞われた。しかし、下部工には損傷がなかったことから、被災から3日後には対面通行を開始。損傷した桁の撤去から新しく製作した桁の架設を経て、約7か月後には上下6車線での完全復旧を果たせたのは、本橋の下部工が衝撃に強く強靱な特性の鋼管杭基礎であったことも寄与している。

鋼材がもつ強靱な特性で想定外の災害にも対応

07

東京湾アクアライン

1989~1997年 建設

鋼管杭・鋼管矢板概要

鋼管径 : φ800~2000mm
施工深さ: 最大81m
鋼材量 : 124,500ton

東京湾アクアライン

建築物概要

大水深・軟弱地盤に造成した人工島や国内最長の橋梁など、20世紀終盤を飾るビッグプロジェクト

神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ東京湾アクアラインは、8年の工期と1.4兆円の総工費をかけた20世紀後半の日本を代表する一大プロジェクトであった。東京湾中央部を横断する全長15.1kmのうち、川崎側約9.5kmは東京湾アクアトンネルと呼ばれる海底道路トンネルとなっており、中央部に換気や緊急時の避難を目的とした風の塔(川崎人工島)が設けられている。木更津側は現在でも日本一の橋長4,384mを誇るアクアブリッジと呼ばれる橋梁が建設され、トンネルと橋梁の接続部分にも木更津人工島が造成され「海ほたるパーキングエリア」として利用されている。
高水圧で軟弱地盤の海底トンネル掘削には当時最新鋭のシールドマシンが投入され、その発信基地でもあった川崎・木更津両人工島だけでも67,000tの鋼管杭・鋼管矢板が使用され、国内で初めて水中油圧ハンマーが採用された。多数の新技術・新工法が開発・実用化されて完成した東京湾アクアラインは、当時「土木のアポロ計画」と称されたほど歴史的な海洋土木工事だったのである。
東京湾アクアラインの開通効果は、千葉県の上総・南房総地域から京浜地区への走行時間の大幅短縮、千葉県内から農産物や建設資材などを京浜地区に運ぶ物流効率の大幅向上、木更津市の人口の増加など、房総〜京浜間の時短効果による物流促進、地域経済活性化として見られる。

海上構造物ゆえ腐食との闘いが重要なメンテナンス

東京湾アクアラインの維持メンテナンスは、日々の風雨に加えて海水の影響を受けるため、陸上以上にシビアに管理されている。アクアブリッジの海ほたる側12の鋼製橋脚では、建設当時最高クラスであったふっ素樹脂塗装と干満部へのチタンクラッド鋼板被覆で防食対策を施していたが、供用から20年が経過し、錆の発生なども認められてきたため、2007年から毎年1脚のペースでタッチアップを行い、現在二巡目に入っている。
風の塔など人工島海中部の構造である鋼製ジャケット式護岸ではアルミ合金を鋼材に溶接し、犠牲陽極として鋼材の腐食を防ぐ電気防食を施しているが、建設時は15年耐用だったものを2008年から45年耐用のものに順次交換をすすめているという。
通勤・通学やレジャー・観光の促進だけでなく、房総地区への定住促進まで現れてきたことなど、東京湾アクアラインの成果が20年を超えて、より鮮明になってきた。

海上構造物ゆえ腐食との闘いが重要なメンテナンス

08

古宇利大橋

1997~2005年 建設

鋼管杭・鋼管矢板概要

鋼管径 : φ1000mm
施工深さ: 最大80m
鋼材量 : 約12,000ton

古宇利大橋

建築物概要

無料の一般道路橋としては開通時に国内最長恵まれた自然環境で観光資源としても注目

古宇利大橋は、本島と陸上交通路をもたない隔絶性から、医療や福祉、教育、産業などの生活面で、さまざまな格差が生じる「離島苦」解消のため、1960年代(昭和35年頃)後半から取り組まれてきた沖縄県の離島架橋のひとつである。
1993年から事業化された本橋(橋長1,960m)は、2005年2月の供用開始時点では通行料金のいらない一般道路橋としては国内最長であった。
無料の一般道路としての最長記録は、翌年に開通した新北九州空港連絡橋(2,100m)に更新され、沖縄の離島架橋として2015年に伊良部大橋(3,540m)が開通したことから、現在では沖縄県内で2番目に長い橋となっている。
古宇利大橋の開通以降、古宇利島と沖縄本島間は自動車による移動が常時可能となったことで、古宇利島からの通勤や通学の利便性のほか、通院や救急搬送などの医療体制が改善することで、生活環境が大きく改善された。
また、橋詰めにビーチを新設したり農水産物直売広場を整備するなどしたことから、観光目的の来島者が急増し、飲食店や物産販売などの商業活性化につながっている。

無料の一般道路橋としては開通時に国内最長恵まれた自然環境で観光資源としても注目

周面摩擦力による支持力で不適とされていた地層に新設計をもたらす

基礎工の分野で古宇利大橋が注目されたのは、琉球石灰岩層と呼ばれる地層で、杭の周面摩擦力に期待して支持力を求めた設計思想にある。古宇利大橋より過去の橋梁基礎が支持層としてきた島尻層は、本橋架橋地点では大深度で、杭長が100m近くになる橋脚もあった。コスト縮減の観点から支持層が再検討され、各種載荷試験の結果から琉球石灰岩層では大きな周面摩擦力が得られることが判明した。その結果、杭の先端支持力は小さく見積もり、周面摩擦力で支持力を確保する設計としたことで、従来工法より大幅に杭長を短くできたばかりか、それまで不適とされてきた石灰砂礫層で鋼管杭基礎の新たな設計を実現した事例となった。

海上環境に配慮した適切な管理方法で海を渡る架け橋を維持する

開通から15年以上が経過した古宇利大橋では、これまでに大きな改修を行うような経年劣化等は発生していないという。橋梁の機能向上を図るようなリニューアル工事も計画されていないが、所定の定期点検を実施しながら適切な維持管理が続けられている。
基礎工に使用している鋼管杭の維持管理では、防食対策として電気防食(アルミニウム合金陽極)が設置されているため、上部工の路面部で電位測定装置による流電確認が定期点検に併せて実施されている。

09

東京国際空港D滑走路

2007~2010年 建設

鋼管杭・鋼管矢板概要

鋼管径 : φ1320.8~1600mm
施工深さ: 最大90m
鋼材量 : 約90,000ton

東京国際空港D滑走路

建築物概要

構造、設計思想、施工管理など技術の粋を集めた国内最大級のプロジェクト

東京国際空港の発着容量増強のため、「最後の沖合展開による新滑走路建設」ともいわれたD滑走路建設工事。多摩川河口部の通水性を確保するための鋼管杭を用いたジャケット式桟橋構造と埋立部を接続した日本初となるハイブリッド構造の空港人工島を、昼夜連続の急速施工により、着工からわずか41ヵ月という短工期で供用開始するなど、その規模、設計および技術力などから日本の建設史で最大級のメモリアルとなるプロジェクトである。
D滑走路は2010年10月の供用から大きな効果をあげ、国内線発着数は供用以前の約30万回から45万回(2013年度)と大幅に増強。さらに、これとは別に羽田再国際化による国際線の発着が約9万回加わり、旅客、航空貨物双方の需要に応え、大きな経済効果をあげている。

100年供用を確実にするため厳しい管理基準で耐腐食環境に万全を期す

厳しい海洋環境に巨大な鋼構造物を建設したD滑走路は、設計時から100年間の供用期間に伴う性能維持が求められ、100年間の維持管理マニュアルを含めた設計施工一括方式で発注された。
桟橋部の上部鋼桁は、全体が耐腐食性に優れるチタンカバープレートによって覆われ、床面積で約50万m2ある桁内部は、各7.9m×3.7mの約2万区画に分けられている。その内部を巡回して変状等の有無を点検するほか、結露による桁内塗装の劣化を防ぐため、除湿機と循環ファン、送気ダクトからなる57基の除湿システムを利用して、桁内部の相対湿度をコントロールしている。
ジャケット式桟橋部の下部橋脚部については、鋼桁カバープレートから海面付近までのジャケットレグは干満・飛沫帯の補修が困難な環境にあるため、鋼材表面を耐腐食性に優れた耐海水性ステンレスライニングで防食施工されている。ジャケットと一体化され海中に打設された鋼管杭は、アルミニウム合金陽極を用いた流電陽極方式の電気防食が施されている。
この部分では電気変位量による防食チェックのほか、5年に一度、ダイバーを投入して多摩川からの障害物が防食システムに影響を及ぼしていないかなどの確認を行っている。2022年現在、水中ソナーによるデータを映像化する新しい形式の水中ドローンを用いて、視界が悪く潮流の変化や橋脚等が複雑に設置され危険な海域の点検作業を、機械化できないかと試験を繰り返している。
建設後も、さまざまな技術革新を伴いながら100年間の維持管理を万全にすることで、巨大な航空需要を支えている。

100年供用を確実にするため厳しい管理基準で耐腐食環境に万全を期す

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仁ノ海岸堤防

2012~2013年 建設

鋼管杭・鋼管矢板概要

広幅鋼矢板Ⅳw型
施工深さ: 最大16.5m
鋼材量 : 4,000ton

仁ノ海岸堤防

建築物概要

鋼矢板二重式工法の門形構造で液状化対策とともに水平変位を最小限に

2011年に発生した東日本大震災以降、全国の河川・海岸堤防で耐震や津波への対策が見直されて取り組まれてきたが、高知海岸においても今後30年以内に70〜80%の確率で発生するとされている東南海・南海地震に備えた既存堤防の液状化対策に採用されたのが、鋼矢板二重式工法による堤防改良工事であった。

鋼矢板二重式工法の門形構造で液状化対策とともに水平変位を最小限に

仁ノ海岸は、それまでたびたび越波の事例がある堤防であった。耐震・津波対策のためには堤防の断面を大きくする必要があるが、堤防背後には直近まで主要県道や住宅地が隣接し、前面は浸食海岸であることから、堤防を引くことも前出しすることも不可能であった。さらに、ウミガメの産卵地であるため、砂浜を広く埋立てるような工事ができないという、様々な制約から既存堤防を利用しながら対策を実施するよう迫られた。
既存堤防の高さはT.P.+10.26mであり、東南海・南海地震による広域沈下想定が最大2m、高知県で設計段階で設定した津波高は8mであったため、堤防高さは十分にあるものの、越波・越流や津波の作用力による破堤の危険性があった。そこで、既存堤防の高さは変えずに、海側全面と背面に広幅鋼矢板を二列に圧入し、鋼矢板上部をタイ材で緊結する鋼矢板二重式工法が採用された。鋼矢板の門型断面構造による地盤の締切り効果で堤体崩壊を抑止し、液状化による堤防沈下を抑制することで、越波・越流による破堤を防ぐとともに、高靭性の鋼矢板により津波の作用力にも耐えることができる。
限られた施工スペースで既存堤防を活用しながら、堤体内部への鋼材(鋼矢板)の打設により、海岸堤防における地震・津波対策の嚆矢となった事例である。
仁淀川右岸河口部に隣接した新居海岸約700mでも2013年11月から2015年3月までの期間で同様の工法で耐震対策が施された。

鋼矢板二重式工法の門形構造で液状化対策とともに水平変位を最小限に

既存堤防を活用した鋼矢板二重式工法による対策工は、将来の堤防嵩上げなどへの対応も可能にしている構造のため、全国の海岸堤防の耐震・液状化、津波対策に有効な工法として普及していくはずである。